人的資本の情報開示始まる~開示義務化の19項目とポイントを解説
コロナ禍をきっかけに世の中の環境が大きく変化し、企業における人的資本の重要性がさらに高まっています。
また、2023年度3月期決算以降から有価証券を発行している企業のうち上場企業を中心に「人的資本情報の開示」が義務化されました。
そこで今回は、人的資本情報の開示項目や、有価証券報告書にはどのように記載をしていけばよいかをご紹介していきます。
目次[非表示]
- 1.人的資本の情報開示とは
- 1.1.人的資本と人的資本経営
- 1.2.2023年に人的資本情報の開示が義務化
- 2.人的資本情報開示の背景
- 2.1.人的資本の価値の高まり
- 2.2.ESGへの関心の高まり
- 3.人的資本の情報開示項目
- 3.1.分野1人材育成
- 3.2.分野2多様性
- 3.3.分野3エンゲージメント
- 3.4.分野4流動性
- 3.5.分野5健康・安全
- 3.6.分野6労働慣行・コンプライアンス
- 4.人的資本情報開示のポイント・注意点
- 4.1.開示する情報の整理
- 4.2.情報の定量化
- 4.3.ストーリー性をもたせる
- 5.まとめ
人的資本の情報開示とは
人的資本情報の開示義務化について、ここで詳しく説明していきます。
人的資本と人的資本経営
人的資本の情報開示義務化について説明する前に、人的資本や人的資本経営についておさらいしておきましょう。
人的資本とは、ノーベル経済学者のゲイリー・ベッカー(Gary S. Becker)によって1960年代に提唱されました。ゲイリー・ベッカーは、経済学の視点から個人のスキル、知識、教育、健康、労働力などを資本と同様に扱い、これらの要素が経済的な価値をもつと主張しました。
人的資本経営は、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のことをいいます。
人的資本経営のメリットには以下のようなものがあげられます。
・生産性の向上
人材育成や従業員のスキルアップに投資することで、全体的な生産性の向上が期待できます。
・イノベーションの促進
高度なスキルや知識を有した従業員を育てることができるため、新しいアイデアやイノベーションの創出につながります。
・従業員の満足度とエンゲージメントの向上
人的資本経営は従業員のスキル向上やキャリアの発展を支援し、満足度とエンゲージメントを高めます。満足度の高い従業員は、企業のために自発的に行動し企業の目標を達成しやすくなります。
・リスク軽減
適切なトレーニングと教育を提供することで、問題の発生を軽減し、組織のリスクを軽減しやすくなります。
・競争力の強化
人的資本経営は企業の競争力を強化します。社員一人ひとりの才能を引き出し、活用することで、市場での競争優位性を獲得できます。
このように人的資本経営は企業に多くの利益をもたらし、生産性の向上、競争力の強化、イノベーションの促進、従業員の満足度向上、リスク軽減など、多くのメリットが得られます。
2023年に人的資本情報の開示が義務化
2023年3月期決算以降に企業が従業員のために「どのような計画、投資をしているか」などの情報を有価証券報告書で開示することが義務化されました。
情報開示の義務化の対象は有価証券報告書を発行する約4000社です。
これは、企業が人的資本(従業員)に関するデータや情報を透明かつ公正に提供し、ステークホルダー(株主、投資家、顧客、従業員、政府機関など)に企業の人的資本経営に関する洞察を提供するための取り組みです。
人的資本情報開示の義務化は、企業の社会的責任の一環として、持続可能性と透明性を高めることが目的です。
人的資本情報開示の背景
人的資本情報開示の背景には主に以下2つの影響があると考えられます。
- 人的資本の価値の高まり
- ESGへの関心の高まり
それぞれ詳しく説明していきます。
人的資本の価値の高まり
人的資本の価値が高まっている背景は、以下のような要因があると考えられます。
デジタル化と技術の進化
デジタル技術の急速な進歩により、デジタルスキルや技術的な専門知識をもつ人材の需要が増加しています。AI やロボットと協調し、イノベーションを起こすために、既存社員のスキル・能力を育成することも企業成長には欠かせません。
ダイバーシティ&インクルージョン
中長期的な事業価値向上のためにはイノベーションを生み出すことが非常に大切です。
そのためには、多様な個人の能力や視点や、経験を取り込むことが重要と考えられています。
ESGへの関心の高まり
ESGは環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つから成り立ち、持続可能な経営を目指すうえで欠かせない要因です。
特に人的資本はESGの「S」の社会に当たるところから、投資家からも重要視されています。
人的資本の情報開示項目
人的資本情報開示の対象企業は、投資家やステークホルダーに向けて以下の表にまとめた項目の情報を有価証券報告書に記載するのが望ましいとされています。
それぞれどのような内容を記載するのか詳細をみていきましょう。
分野1人材育成
- 従業員のスキル向上を支援するためのプログラム、予算、研修参加率
- リーダーシップの育成
- 研修と人材開発の効果
- パフォーマンスとキャリア開発について定期的なレビューを受けている従業員の割合
分野2多様性
- 男女間の差別について
- 性別の従業員・経営層の比率
- 正社員・非正規社員の福利厚生費の差
- 育児休業後の復職率などの割合
分野3エンゲージメント
- 従業員が企業に対してどれだけの情熱をもっているか、仕事にどれだけ満足しているか、組織の目標に共感しているかなどの割合
分野4流動性
- 採用計画、定着率、人材確保・定着の取組の説明
- 離職率、 従業員の退職や離職に関する戦略と計画
分野5健康・安全
- 労働災害の発生件数・割合、死亡数など
- 医療・ヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲の説明など
- 安全な労働環境の維持、事故発生率、安全対策などの説明
分野6労働慣行・コンプライアンス
- 児童労働・強制労働に関する説明や、労働時間と賃金に関する開示
- 企業が従業員を尊重し、公平で安全な労働環境を提供できているか
- コンプライアンスや人権などの研修を受けた従業員割合や差別事例の件数・対応措置に関する説明など
人的資本情報開示のポイント・注意点
次は人的資本情報開示のポイント・注意点をみていきましょう。
以下のようなことが重要です。
- 開示する情報の整理
- 情報の定量化
- ストーリー性をもたせる
詳細を解説していきます。
開示する情報の整理
開示する情報を明確に整理しましょう。
社員のスキル、教育、多様性、エンゲージメントなど、重要な要素を組織的にまとめておくことで、自社のアピールもしやすくなります。
情報の定量化
主観的な情報だけでなく、定量的なデータも提供しましょう。数値データは比較や評価に役立ちます。
ストーリー性をもたせる
数字に加えて、人的資本に関するストーリーを伝えることが重要です。成功事例や従業員の貢献に焦点を当て、情報を魅力的に表現しましょう。
まとめ
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